創薬をささえる分析化学
「探して見つける」から「予想して創り出す」へ
ほんの数十年前までは、新しい薬は「探して見つける」ものでした。古くは野山の植物の中から、傷や病気に効くものを見つけ出して薬草とした例があります。また近年、臨床に用いられている抗生物質や高脂血症治療薬(血中コレステロールを下げる薬)の多くは、もともとはカビや微生物が作り出したものや土壌などから、有効な成分を探し出してきたものです。
1980年代以降、分子生物学が発達し、体の中のどんな物質が病気に関与しているのかという病気の仕組みが、分子レベルで明らかになってきました。また1990年代以降の構造生物学の進展により、病気に関与する生体分子がどのような形をしていて、そこに薬を入れた場合に、分子の形はどのように変化するのかわかってきました。どのような構造の薬なら病気に効きそうか、「予想して創り出せる」ようになってきたのです。このような新たな考え方で創る薬を「分子標的薬」といいます。病気の原因となる特定の分子(標的分子)を狙い撃ちにして、その分子のはたらきを盛んにしたり、抑えたりして、病気の治療をする薬のことです。
分析化学は、医療・食品・環境など、広い領域で利用される化学です。19世紀から脈々と続く学問で、科学の発達とともに常に進化し続けてきました。新たな創薬を行っていく上でも、分析化学はその基礎をささえています。私たちの研究室では、進化する分析化学の手法を駆使して、タンパク質の機能の解析や、機能をもったタンパク質の創製を行っています。これらの研究は、病気の仕組みを解明することにも役立ちます。そして、創り出したタンパク質そのものが薬にもなり得るのです。このような創造性豊かな研究を当研究室では行っています。