新たな抗体分子をつくり医療につなげよう
~新薬を創る・治療法を開発する~
生体の免疫応答の場で働く抗体は、抗原分子に対して特異的に結合する性質を持ち、医療や研究の様々な分野でツールとして利用されています。抗体分子のうち、抗原を認識する場所が可変領域(Fv領域)といわれる部分です。Fv領域は、重鎖(H鎖)由来のVH部分と軽鎖(L鎖)由来のVL部分から成ります。このVHとVLをペプチドリンカー(十数個のアミノ酸からなるペプチド)でつないだ分子が一本鎖抗体(scFv)です。scFvの大きな特徴は、標的分子(抗原)をとらえることができるターゲティング能をもつことです。抗原が病気に関与する物質である場合、scFvは、その病気にかかっているかどうかの診断(病態解析)やその分子のはたらきを抑える薬としての利用につながります。scFvは、IgG抗体よりも分子量が小さいため、細胞内で速やかに動き、その効力を発揮します。また、低分子量という性質は、バクテリアでの生産が可能で、安価に製造できるという利点があります。一方で、VHとVLの間の相互作用が弱いため、しばしば不安定化や活性の低下を招いてしまいます。この凝集性の問題は解決することが難しく、scFvの医薬品への応用は停滞していました。私たちは、scFvの末端同士をペプチド結合で連結した環状一本鎖抗体(環状scFv)を創製しました。環状scFvは凝集性が通常のscFvに比べて大幅に低減されていることを見出しました。私たちの研究室では、この環状scFvを医薬品に応用することを目指した研究を進めています。
~病気の状態を調べる~
糖尿病三大合併症の一つである糖尿病腎症は、段階を経て病気が進行することから、できるだけ早期に発見し、適切な治療を行うことが重要です。現在、国内では毎年新たに3万人以上の患者が透析療法を始めていますが、その4割は糖尿病腎症が原因であり、最も多い割合を占めています。生体内のタンパク質が糖化されてできる終末糖化産物(AGEs:advanced glycation end-products)は、加齢や高血糖状態の持続により蓄積され、糖尿病合併症などの生活習慣病に強く関与すると提唱されている。私たちは、AGEs構造の一種であるGA-pyridineを特異的に識別する一本鎖抗体(scFv)にカイコ由来のβグルカン認識タンパク質(βGRP)を結合させた機能性一本鎖抗体を用いて2型糖尿病患者の血液試料を免疫沈降法による分析を進めています。2型糖尿病患者の経過観察期間中における血液検体を用いて、機能性一本鎖抗体による定量分析データと臨床検査データとの相関の統計解析を進め、腎臓疾患の早期診断に有効なバイオマーカーの探索とその臨床応用を目指しています。透析療法の導入につながる腎機能低下者の早期発見により、生活習慣の改善による腎臓病予防や医療費削減の可能性に挑戦します。