研究内容

新しい抗がん剤を求めて

~チロシンキナーゼ阻害剤の耐性獲得機構の解明をめざして~

チロシンキナーゼは、タンパク質を構成するアミノ酸の1種であるチロシンのリン酸化を触媒する酵素です。ヒトを含めた多細胞生物のみに存在し、細胞の分化,増殖、接着、免疫反応など様々な生体反応の引き金となっています。チロシンキナーゼには不活性型と活性型の2つの状態があります。通常は不活性型として存在していますが、細胞の外からの刺激により不活性型から活性型へと変化し、機能が発揮されます。通常の細胞ではチロシンキナーゼの活性は厳密に制御されています。何らかの理由により、その制御が効かなくなって暴走を始めてしまうと、無秩序に細胞が増え続けたり、無秩序に免疫反応が起こり、がんを始めとして様々な病気になります。そのため、チロシンキナーゼは薬の標的として重要なタンパク質となっています。実際、チロシンキナーゼを標的とした薬が臨床現場で数多く用いられています。例えば、慢性骨髄性白血病や消化管質腫瘍 (GIST)の治療に用いられるグリベック、タシグナ、スプリセル、非小細胞肺癌の治療に用いられるイレッサ、タルセバ、腎細胞がんの治療に用いられるスーテント、ネクサバールなどがあります。しかし、それらの抗がん剤を使用していると、薬が効かなくなってくることがあります。

 私たちのグループでは、それらのチロシンキナーゼ阻害薬が効かなくなるのはなぜなのか、という疑問を原子レベル、分子レベルで理解することを目指して研究を行っています。それにより、新しい抗がん剤の開発が進むことが期待されます。

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(a) 正常細胞でのチロシンキナーゼの役割
通常の細胞では活性が制御されており、細胞の外からの刺激に応じて活性型へと変化する
kinase図2.png
(b) がん細胞でのチロシンキナーゼの役割
がん細胞では、細胞の外からの刺激とは無関係に常に活性型である
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