研究内容

新たな治療法を求めて

~血液透析療法に一石を~

現在の血液透析療法では、低分子の水溶性の毒素の除去が可能です。しかし、ビリルビンのような高分子の毒素は、血液中の主要なタンパク質であるアルブミンに結合するためその除去は困難です。このようなアルブミンに対して高い結合性がある毒素は、アルブミン結合毒素(ABT)と呼ばれます。新たな透析療法として、透析液にアルブミンを循環させ結合毒素を引き抜くアルブミン循環透析法(ECAD)が注目されてきています。しかし現状では、アルブミンによる引き抜き効果が充分に得られず、毒素の除去が不十分という問題があります。まだまだ臨床効果が低く問題が多いこの透析法を、より効率的なものに改良することが望まれています。

わたしたちのグループでは、ファージディスプレイ法という方法を用いて、アルブミン結合毒素(ABT)に対してより高い親和性を示す、機能性ヒト血清アルブミンの開発研究を行っています。ファージディスプレイ法では、アルブミンが薬物と結合する部位を分子表面に提示させることができるため、アルブミン結合毒素(ABT)を効果的に取り除くことができます。医療に役立つ、すぐれた血液透析療法用の素材の開発と機能の評価を行っています。

research_img08.jpg
ファージディスプレイ法によるアルブミン変異体の作製

~新しい抗がん剤を求めて~

チロシンキナーゼとは

チロシンキナーゼは、タンパク質を構成するアミノ酸の1種であるチロシンのリン酸化を触媒する酵素である。ヒトを含めた多細胞生物のみに存在し、細胞の分化,増殖、接着、免疫反応など様々な生体反応の引き金となっている。チロシンキナーゼには不活性型と活性型の2つの状態がある。通常は不活性型として存在しているが、細胞の外からの刺激により不活性型から活性型へと変化し、機能が発揮される。通常の細胞ではチロシンキナーゼの活性は厳密に制御されている。何らかの理由により、その制御が効かなくなって暴走を始めてしまうと、無秩序に細胞が増え続けたり、無秩序に免疫反応が起こり、がんを始めとして様々な病気になる。そのため、チロシンキナーゼは薬の標的として重要なタンパク質となっている。実際、チロシンキナーゼを標的とした薬が臨床現場で数多く用いられている。例えば、慢性骨髄性白血病や消化管質腫瘍 (GIST)の治療に用いられるグリベック、タシグナ、スプリセル、非小細胞肺癌の治療に用いられるイレッサ、タルセバ、腎細胞がんの治療に用いられるスーテント、ネクサバールなどが挙げられる。しかし、それらの抗がん剤を使用していると、薬が効かなくなってくることがある。

私たちのグループでは、それらのチロシンキナーゼ阻害薬が効かなくなるのはなぜなのか、という疑問を原子レベル、分子レベルで理解することを目指して研究を行っている。それにより、新しい抗がん剤の開発が進むことが期待される。

research_img09.jpg
(a) 正常細胞でのチロシンキナーゼの役割
通常の細胞では活性が制御されており、細胞の外からの刺激に応じて活性型へと変化する
research_img10.jpg
(b) がん細胞でのチロシンキナーゼの役割
がん細胞では、細胞の外からの刺激とは無関係に常に活性型である
research_img11.jpg
(c) チロシンキナーゼの機能を制御する動き
チロシンキナーゼは局所的な立体構造の変化により活性が制御される

~遺伝性難病に対する創薬をめざして~

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー (TTR-FAP) は血清タンパク質であるTTRの変異体により形成されたアミロイド線維が、神経を中心に全身諸臓器に沈着する常染色体優性を呈する疾患です。現在、最も有効な治療法はTTRの主要な産生臓器である肝臓を置換する肝臓移植ですが、移植に伴う様々な問題のため新規治療薬の開発が急務です。FAPの創薬研究はアミロイド線維形成を抑制する薬剤の開発やTTRの発現を抑制する核酸医薬の開発を中心に展開されています。私たちは、変異型TTRが細胞外に分泌後にアミロイド線維を形成することに着目し、変異型TTRの分泌を特異的に抑制し、細胞内で分解できれば従来の治療戦略とは異なる治療薬が開発できるのでないかと考えています。これまでの研究により、細胞内の小胞体においてTTRが四量体を形成することが細胞外への分泌に必須であることがわかり、TTR四量体化阻害が変異型TTRの分泌を抑制する創薬標的になることを見出しました。現在は、小胞体でのTTR四量体化を阻害する創薬シーズの探索を行っています(遺伝子機能応用学分野との共同研究)。

また、私たちは、本来は非糖鎖型タンパク質であるTTRが小胞体に環境変化(フォールディングストレス)が生じるとN型糖鎖修飾を受けることを世界で初めて発見しました。現在は、このストレスに依存したN型糖鎖修飾の分子機構の解明を目指しています。さらに、本機構がFAPや小胞体の機能異常により生じる疾患の病態形成にどのような影響を及ぼすのかにも興味を持って研究を進めています。

research_img08.jpg
私たちが行っているTTR-FAPの創薬研究
Page Top